市街化農地の相続

1、市街化農地の相続とは?

市街化農地とは、市街化区域内にある農地を指しますが、相続トラブルにおいて深刻な問題となるものは、市街化区域にある農地で、生産緑地の指定を受けている農地です。この場合、営農を継続・廃止いずれにしても相続税・生産緑地制度との関係でクリアーすべき問題が顕在化してきます。
市街化農地の相続トラブルでよくある相談内容としては、次のようなものがあります。

《よくある相談》

  • 農地を相続して納税猶予の特例を利用するように税理士から助言を受けているが、他の相続人が納得せず相続税の申告期限に間に合わない。
  • 生産緑地に指定されている農地を売却して納税資金を確保しようと考えているがどのように進めて良いかわからない。

2、 市街化農地(都市営農農地等に限る)の相続の特徴と注意点

《ポイント》

営農を継続する場合は相続税の申告期限内(原則相続開始から10ヵ月以内)に遺産分割を確定させること、農地を売却して納税資金にあてる場合は、納税期限を考慮して生産緑地の買取申出を行うことが重要です。

2‐1 相続税の申告期限までに遺産分割を確定させないと、相続税の納税猶予の特例を利用できません(申告期限に納税しなければなりません)。

相続税の申告期限までに農地の遺産分割を確定し、その他の要件を満たせば、農地の納税猶予の特例の適用を受けることができます。他方で、申告期限までに遺産分割が確定せず、相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができなかった場合、申告期限経過後に遺産分割が確定しても、当該特例の適用を受けて納税の猶予を受けることはできません

つまり、相続税の申告期限を経過してから、農地について遺産分割が確定した場合は、農地についての相続税を原則通り納付するしかありません。

※配偶者控除や小規模宅地等の特例は、一定の手続により、申告期限後に遺産分割が成立した場合に適用が可能であることと比較して、農地の相続税の納税猶予の特例は例外を認めない割り切った制度設計になっているため注意が必要です。

現実的に考えて、市街化農地の収益力で、相続税の支払をすることは困難なケースが多く、納税猶予の特例を利用できないケースの多くで、営農を断念することになると思われます。

遺言により農地の相続方法を定めてあれば、このような問題はおきませんが、遺産分割協議が必要になる場合は、申告期限を経過すると納税猶予の特例が適用できないことを念頭において、速やかに遺産分割協議をすすめることが重要です。

2‐2 生産緑地の指定を受けている農地を売却して納税資金を確保する場合、早めに手続を進めないと納税期限に間に合いません。

市街化農地の場合、その大半は生産緑地の指定を受けているのが現状と思われます。生産力の指定を解除できるのは、①指定から30年が経過した時(特定生産緑地を除く)、②主たる農業従事者が死亡した時、③主たる農業等従事者が農業等に従事することを不可能にさせる故障が生じた時とされています。

相続が開始した場合は、上記②の要件にあたり、生産緑地の指定を解除することができますが、当該農地がある市区町村に買取申出という手続をし、買取りが実現しなかった場合、初めて行為制限が解除され相続人が自由に利用・売買できるようになります。

この買取申出から行為制限が解除されるまでが3ヵ月とされているため(生産緑地法14条)、この間は納税資金確保のため農地を売買することはできません。また、一般的に不動産売買する場合には、仲介業者を選任してから契約・決済までに2~3ヵ月かかります。更に、農地の場合は農地転用の手続が更に必要になります。

このような手続を考慮すると、相続開始後に遺産分割協議に費やせる時間は限られており、うかうかしていると、納税資金の確保が申告期限に間に合わなくなってしまいます。

2‐3 市街化農地の相続では、相続税や生産緑地制度の目配せしつつ、税理士・不動産業者と連携しながら、処理を進める必要があります。

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