資産管理会社の相続
1、資産管理会社の相続とは
資産規模がある程度大きい場合(特に不動産を所有している場合)、個人所有の土地上に資産管理会社所有の建物を建築して第三者に賃貸する、個人資産を資産管理会社に移転して会社の資産として運用するという対応をするケースがでてきます。
この様に、資産管理会社に移転した財産はあくまで会社の財産ですが、関係者に意識としては、依然として個人の財産と同様に考えていることは珍しくないため、資産会社(又は会社が管理する財産)を相続するという発想が出てきます。
法律上は、資産管理会社自体は相続の対象ではなく、被相続人が会社の株式を所有している場合、この株式が相続の対象となります。
2、資産管理会社の相続の特徴と注意点
2‐1 資産管理会社の相続では、会社の株式の評価額の確定が重要な争点になります。
上記1記載のとおり、資産管理会社の相続において、遺産となるのは資産管理会社の株式ということになります。そのため、この株式の評価額を確定することが、遺産の取得額を左右する重要な争点になってきます。
資産管理会社の場合、上場企業のように株式の取引相場が形成されていないため、取引相場における時価というものが存在しません。そのため、資産会社の株式をどのように評価するかということで当事者が対立することになります。株式の評価方法としては、相続税申告評価、純資産方式、DCFなど様々な方法がありますが、資産管理会社の株式を評価する際に用いる評価方法が実務上確定している状況ではないことから、各相続人が自分に有利な評価手法を採用するように主張することも状況を更に難しくしています。
純粋に裁判手続として割り切ってしまうのであれば、裁判所に鑑定人を選任してもらい鑑定人が株式の評価額を鑑定するという方法がありますが、非常にコストがかかるため、現実的でない場合も多くあります。株式の評価については、基本的に公認会計士が鑑定人に選任されますが、会社の財産に不動産が含まれる場合、この不動産を評価するために不動産鑑定士も必要になります。このような点から、不動産の鑑定よりも相当コストが高くなるというのが実務の現実です。
資産管理会社の株式の評価は重要な論点ですが、コストを度外視することはできないため、遺産全体に占める株式の比重、会社財産の複雑性、資金余力等を総合的に勘案して対応を決定することになります。
2‐2 資産管理会社の株式は相続対策(相続税対策)として生前贈与されていることがあります。
資産管理会社の株式評価の重要性は上記2‐1のとおりですが、場合によっては、資産
管理会社の株式が生前贈与されている場合があります。会社の後継者が決まっている場合は、事業承継の一環として、①株価が低いタイミングを見計らって贈与される場合、②複数回に分けて贈与がされる場合などがあります。
この場合は、基本的には、生前贈与=特別受益として相続で考慮していくことになりますが、評価額の確定の前段階として贈与の詳細を調査するという作業が出てきます。
2‐3 遺産分割協議中における会社の運営に関する紛争が派生することがあります。
相続開始から遺産分割協議が成立するまでは一定の時間が必要であり、紛争化した場合は遺産分割協議が成立するまで年単位の時間を要することも珍しくありません。
この場合、遺産分割協議が成立するまでの間の資産管理会社の運営をどのように行っていくかという問題が生じてきます。典型的な例としては、被相続人が資産管理会社の取締役(取締役1名)、100%株式を保有していたという場合です。このような場合は、会社運営をする取締役を選任しないと、会社を法律上有効に運営することができなくなってしまいます。
また、被相続人が資産管理会社の代表取締役、長女(相続人)が取締役、被相続人が100%株式を保有していたという場合、代表取締役死亡後の会社を取締役である長女が事実上取り仕切る状況が発生することがあり、これに反対する相続人との間で紛争化することもあります。
遺産分割協議により、会社の株式の帰属が確定すれば、これに基づいて自ずと多数派が決まり会社経営が安定しますが、遺産分割が未了の段階では、株式は全て相続人間で法定相続分に応じて共有(正確には準共有)とされることがこの問題の根源にあります。
相続人間で、株式取得の希望が競合している場合は、特にその前哨戦として資産管理会社の経営権を確保が争われることになります。
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